- 歩留まり・バスタブカーブとは
- 集積回路の故障・特性劣化の原因
- ホットキャリア注入 (HCI:Hot Carrier Injection)
- TDDB (Time Dependence Dielectric Breakdown)
- NBTI(Negative Bias Temperature Instability)
- エレクトロマイグレーション (EM:Electromigration)
- ストレスマイグレーション (SM:Stress Migration)
- イオンマイグレーション (エレクトロケミカルマイグレーション)
- ウィスカ
- Soft error (SEU:Single Event Upset)
- SEB (Single Event Burnout)
- ラッチアップ
- 水分による故障
- 静電破壊
- パッド・ワイヤーボンディング・パッケージの故障
- まとめ
歩留まり・バスタブカーブとは
歩留まり
歩留まりとは製品を製造する際の「良品/全体」のことです.歩留まりが高いほど初期の不良品が少ないため,生産性が向上してコストを抑えることができます.集積回路で歩留まりを向上させる方法としては,以下のことがあります.
・チップサイズを小さくする
・クリーンルームでの製造
・歩留まりを向上させるための設計
ー冗長性 (リダンダント)を持たせる
ーDFM (Design For Manufacturability):製造時のばらつき等を考慮した設計
ーDFT (Design For Testability):テストを効率よくするための設計 (出荷品質向上)
バスタブカーブ
バスタブカーブとは故障率曲線のことで,製品を製造してからの時間と故障率の関係で,バスタブのような形をした曲線をしているため,このように呼ばれています.
最初の一年ほどは初期故障で,初期故障は欠陥,ミス,エラーなどで高くなります.しばらくたつと初期故障は落ち着いてきます.製造した製品にあえてストレスを与える加速試験によって,初期故障が起こりやすいものをあえて故障させることで,お客さんのもとで故障してしまうことを下げることも行われます.
偶発故障は経過時間によらない故障です.突発的な事象が故障の原因となることが多く,故障率としては低いです.
摩耗故障は摩耗,疲労,部品の寿命によって故障率が再び上がる故障です.
集積回路の故障・特性劣化の原因
ホットキャリア注入 (HCI:Hot Carrier Injection)
ホットキャリア注入 (HCI:Hot Carrier Injection)は,高エネルギーのキャリア (ホットキャリア)が酸化膜中に注入,捕獲されることでトラップとなって特性劣化や故障を引き起こす現象です.ホットキャリアは酸化膜からゲートに突き抜けたり,基板側へ突き抜けたりもします.
微細化によって電界が高くなると,ホットキャリア注入も起こりやすくなります.また一般にドレイン電圧が高く,温度が低いほどホットキャリア注入が起こりやすいです (温度が低いとフォノン散乱によるエネルギー損失が減るため).
対策
・LDD (Light Doped Drain)によって,電界を緩和することで,ホットキャリア注入も緩和できます.
TDDB (Time Dependence Dielectric Breakdown)
MOSで低電界が形成されている場合でも,時間の経過とともに破壊が起きます.ゲートに電圧を印加し続けた際に,電界によってキャリアが酸化膜中に注入されて欠陥が生成されます.TDDB (Time Dependence Dielectric Breakdown)は,この酸化膜の欠陥が繰り返し起こって,ゲートからSi基板までつながることでおこる絶縁破壊とされています.
NBTI(Negative Bias Temperature Instability)
NBTI(Negative Bias Temperature Instability)は,pMOSに負バイアスを印加し続けたときにおこる特性劣化です.
Si (シリコン)では,酸化膜とSi基板の界面でダングリングを不活性化させるために水素を用いてSi-Hが存在させることがあります.このSi-Hが高温,バイアス,ホールなどの影響で電気化学反応を起こして水素が発生することがあり,これによってダングリングボンドが発生し,水素は酸化膜の欠陥の結びついてトラップとなります.これによる特性劣化がNBTIです.
NBTIだけではなく,nMOSでおきる PBTI (Positive Bias Temperature Instability)もあります.
対策
・NBTIは負電圧を印加し続けていると特性劣化が起こりますが,このストレスをオフにすることで急速に回復します.
エレクトロマイグレーション (EM:Electromigration)
エレクトロマイグレーション (EM:Electromigration)は配線に電流を流す際に金属イオンが移動して,陰極ではボイドが発生してオープンに,陽極側ではヒロックやウィスカが成長してショートになる故障です.
多結晶の粒界や結晶の表面で起こりやすいです.
対策
・配線にメッキをする (バリアメタル),配線に銅を使う,コンタクトにタングステン (W)を用いることエレクトロマイグレーションへの耐性が向上します.
ストレスマイグレーション (SM:Stress Migration)
ストレスマイグレーション (SM:Stress Migration)は膜や配線での熱膨張係数の違いから,温度ストレスによって応力が発生し,この応力によって金属原子が移動することでボイドや断線が起こる現象です.
対策
・エレクトロマイグレーション同様,配線にメッキをする (バリアメタル),配線に銅を使う,コンタクトにタングステン (W)を用いることストレスマイグレーションへの耐性が向上します.
イオンマイグレーション (エレクトロケミカルマイグレーション)
イオンマイグレーション (Ion Migration,エレクトロケミカルマイグレーション)は電位差による化学反応によって,金属が化学反応を繰り返しながら樹枝状に広がっていく現象です.特性劣化や短絡を引き起こします.
温度,湿度が高いほど起こりやすく,金属原子の種類では銀 (Ag)や銅 (Cu)で起こりやすいです.
対策
・銅配線にメッキをする (バリアメタル),配線間にキャップ膜を設けることで低減することができます.
ウィスカ
ウィスカは金属がひげ状に結晶成長する現象で短絡,故障を引き起こします.ウィスカはCu材料との化学反応,温度,外部からの応力,エレクトロマイグレーションによって起こるといわれています.
SnメッキやZnメッキで起こりやすいです.
Soft error (SEU:Single Event Upset)
Soft error (SEU:Single Event Upset)はパッケージなどに微量に含まれるウラン (U)やトリウム (Tr)からのα線や,宇宙からの宇宙線でメモリが反転したりする現象です.故障ではなく一時的なエラーで,放射線によって高密度の電子正孔対が発生することで,メモリーやセンサーで誤動作を起こします.
微細化に伴って,一つのメモリで扱うキャリアの数が減るため,頻度が増加します.似た現象にSEB (Single Event Burnout)とSEL (Single Event Latchup)があります.
対策
・パッケージなどの純度を上げてα線を減らす
・チップ表面をコーティングしてα線を防ぐ
・ソフトエラー耐性のある設計 (一つのメモリーやセンサーで扱う容量を増やすなど)
SEB (Single Event Burnout)
SEB (Single Event Burnout)は放射線によって発生した電子正孔対が原因で,大電流が流れて破壊が起きる現象です.パワー素子で発生しやすいです.
ラッチアップ
集積回路では構造上,トランジスタでサイリスタが寄生しています.通常の状態では,この寄生サイリスタはオフになるようになっていますが,何らかの原因でオンになってしまうことがあります.この寄生サイリスタがオンになってしまう現象がラッチアップです.ラッチアップが起こると大電流を流して破壊の原因になります.
寄生サイリスタがオンになる原因として,外来サージなどのノイズがあります.また放射線によって電子正孔対が発生して,ラッチアップの原因となるSEL (Single Event Latchup)もあります.
水分による故障
水分も集積チップの故障の原因になります.集積チップはパッケージ (樹脂)によって,水分から守られていますが完璧ではありません.
水分が樹脂から透過したり,樹脂と配線などの界面が水分が侵入することで,パッド部やクラックで露出させたAlを腐食させて故障や特性劣化の原因になります.また,製造時にもパッケージに水分があり状態で加熱すると,クラックを起こして故障することもあります.
最近ではパッケージの耐湿性や製造技術が向上して,ほとんど問題ではなくなっているそうです.
静電破壊
静電気放電 (ESD:Electrostatic Discharge)は,いわゆる静電気によって起こる破壊です.
対策
・静電気が起きづらい構造にする
・アースする
・チップの前にダイオードなどを設けて,大電流を逃がす保護回路を設ける
パッド・ワイヤーボンディング・パッケージの故障
以上で説明した以外にも,以下にようにパッド・ワイヤーボンディング・パッケージの故障があります.
- パッケージとチップをつなぐワイヤとパッドの接合面での故障.Au (金)-Al (アルミニウム)などの異種金属の接合での故障として,熱膨張の不整合,拡散係数の差によるボイド (カーケンダル効果),酸化による高抵抗化などが原因としてある.
- チップや樹脂の熱膨張の差などによって発生した応力によって,Al (パッド-ワイヤーボンディングの接合)がスライドしてしまう,Alスライド.Alスライドはパッシベーション膜などがクラックして,故障の原因となりうる.
- 樹脂の強度と熱膨張率を制御するために,添加したフィラーがチップ表面にダメージを与えて故障の原因となる.
まとめ
- 歩留まり:製品を製造する際の「良品/全体」のこと.歩留まりが高いほど初期の不良品が少なく,生産性が向上してコストを抑えられる.
- バスタブカーブ:故障率曲線.製品を製造してからの時間と故障率の関係を示す曲線.
- 集積回路の故障・特性劣化の原因
ー ホットキャリア注入 (HCI:Hot Carrier Injection)
ー TDDB (Time Dependence Dielectric Breakdown)
ー NBTI(Negative Bias Temperature Instability)
ー エレクトロマイグレーション (EM:Electromigration)
ー ストレスマイグレーション (SM:Stress Migration)
ー イオンマイグレーション (エレクトロケミカルマイグレーション)
ー ウィスカ
ー Soft error (SEU:Single Event Upset)
ー SEB (Single Event Burnout)
ー ラッチアップ
ー 水分による故障
ー 静電破壊
ー パッド・ワイヤーボンディング・パッケージの故障