MOSFETのしきい値電圧と基板バイアス効果について解説していきます.MOSFETの基礎と動作を理解に役立ててください.
MOSFETのしきい値電圧
下図にMOSFETの構造とゲート電圧\(V_{GS}\) – ドレイン電流\(I_D\)のグラフを示します.MOSFETではゲートをオンにすると,あるゲート電圧のときから急激にドレイン電流\(I_D\)が流れるようになります.このときの,急激にドレイン電流\(I_D\)が大きくなるゲート電圧をしきい値といいます.
ここでは式の導出はしませんが,MOSFETのしきい値電圧\(V_{TH}\)は以下のようになります.式からわかるように,しきい値電圧はゲート酸化膜容量や不純物濃度にも依存します.つまり,ゲート酸化膜の厚みや添加する不純物の濃度によって,しきい値をある程度制御することができます.
MOSFETのしきい値電圧 (基板バイアス効果なし)
$$V_{TH}=V_{FB}+2\phi_F+\frac{1}{C_{ox}}\sqrt{2\epsilon qN_A(2\phi_F)}$$
- \(V_{FB}\):フラット電圧
- \(\phi_F\):反転状態時の表面ポテンシャル
- \(C_{ox}\):ゲート酸化膜容量
- \(\epsilon\):誘電率
- \(q\):素電荷
- \(N_A\):ドーピング密度
基板バイアス効果
前節で示したしきい値電圧の式では,基板バイアス電圧 \(V_{BS}\) (基板にかけている電圧)はしきち値電圧に関係していません.しかし実際は,基板バイアス電圧 \(V_{BS}\)によって,しきい値電圧が変化します.これを基板バイアス効果といい,このときのしきい値電圧は以下のようになります.
MOSFETのしきい値電圧 (基板バイアス効果あり)
$$V_{TH}=V_{FB}+2\phi_F+\frac{1}{C_{ox}}\sqrt{2\epsilon qN_A(2\phi_F+|V_{BS}|)}$$
\(V_{BS}\):基板バイアス電圧
式から,基板バイアス電圧 \(V_{BS}\)によって,しきい値電圧が変化することがわかります.このようにチップ (集積回路)を製造したあとでも,基板バイアス電圧を制御することで,しきい値電圧をある程度制御することができます.
エンハンスメント型とディプレッション型
MOSFETのしきい値電圧について説明しましたが,MOSFETはこのしきい値によって,エンハンスメント型とディプレッション型の2つの種類に分けられます.これについて下図に示しています.nMOSでは,しきち電圧が0以上でエンハンスメント型,それ以下のがディプレッション型となります.pMOSでは反対に,しきち電圧が0以上でディプレッション型,それ以下のがエンハンスメント型となります.
これらはGND (電圧が0)で,MOSFETがオンしているか,オフしているのかの違いがあります.
まとめ
MOSFETのしきい値電圧 (基板バイアス効果なし)
\(V_{TH}=V_{FB}+2\phi_F+\frac{1}{C_{ox}}\sqrt{2\epsilon qN_A(2\phi_F)}\)
MOSFETのしきい値電圧 (基板バイアス効果あり)
\(V_{TH}=V_{FB}+2\phi_F+\frac{1}{C_{ox}}\sqrt{2\epsilon qN_A(2\phi_F+|V_{BS}|)}\)