CMOSイメージセンサのみならず電子デバイスは研究者・エンジニアの努力により様々な技術が生み出され,これら技術により発展してきました.本記事ではCMOSイメージセンサを支える基礎技術を紹介していきます.
基礎技術(画素)
埋め込みフォトダイオード
埋め込みフォトダイオードはフォトダイオードのn層の表面にp層を設けることでn層を埋め込んだフォトダイオードです.埋め込みフォトダイオードにすることで表面で発生する暗電流を小さくさせることができます.また埋め込みフォトダイオードではn層を完全空乏化することができるので,拡散・ドリフトによって電荷が転送されやすくなるため残像を抑えることができます.
グローバルシャッタ
CMOSイメージセンサでは各行毎に信号を読出していきますが,シンプルな構造ではローリングシャッタと言われる行ごとで露光する時間が違います.このローリングシャッタでは動いてる被写体を撮影する際にローリングシャッタ歪みと呼ばれる歪みが発生してしまいます.
グローバルシャッタは画素内にメモリを追加するなどして,全行の画素で同じタイミングで露光するようにしたイメージセンサです.
OB (Optical Black)
OB (Optical Black)は有効画素とは別に光が入らないように遮光した画素です.このOBによって暗い場合の信号を計測して基準にできます.また列と行のばらつきの補正にも利用できます.
マイクロレンズ
マイクロレンズ (オンチップレンズ)は各画素に設けられたレンズのことです.このマイクロレンズにより光を集光して感度を高めます.
瞳補正
画素は中央と端のほうでは入る光の角度が違います.これによって端のほうで感度が落ちてしまいます.それを瞳補正と呼ばれるマイクロレンズの位置を少しずらすことによって,端での光の損失を抑えます.
光導波路
画素内に屈折率の高い光導波路を設けることで,光が外に漏れるのを抑えることで感度を高めます.
反射防止膜
画素内に反射防止膜を設けることで反射するのを抑えて,感度を向上させます.反射防止膜としては屈折の異なる材料を組み合わせたもの,モスアイ構造などの微小な凹凸構造をしたものなどがあります.
ピラミッド構造
ピラミッド構造は画素の受光面にピラミッド構造を作ることで,赤外線などの長波長光の感度を向上させる技術です.ピラミッド構造によって光を回折させて,光が感度部にいる距離を延ばすことで感度を高めます.しかしこれによって光が画素で斜めに入射しやすくなるため,クロストークが悪くなる欠点があります.
電子シャッタ
カメラではシャッタで露光する時間を制御していますが,電子シャッタは露光していない時間の電荷を捨てることで露光時間を制御するシャッタのことです.
像面位相差オートフォーカス (PDAF)
像面位相差オートフォーカス (PDAF:Phase Detection Auto Focus)は自動で焦点を合わせるオートフォーカス (AF)の一種です.PDAFはイメージセンサの一部,あるいは全画素の一部を遮光したりすることで位相差を測れるようにします.焦点があっていないと位相もずれるため,これを利用してオートフォーカスします.PDAFは焦点がどっちの方向にずれているかがわかるため,高速にオートフォーカスできる特徴があります.
ただコントラストAFと比べると精度が低いため,PDAFで高速にAFしたあとに,コントラストAFで精度高くAFする方式もあります.
基礎技術 (画素以外)
CDS (相関2重サンプリング)
CDS (相関2重サンプリング)は相関のあるリセットレベルと信号レベルの差を取ることで信号を取り出すための回路です.CDS回路によって増幅MOSトランジスタによるFPNの抑制,1/fノイズ,kTCノイズの抑制ができます.
間引き走査,切り出し走査 (電子ズーム)
イメージセンサでは撮影する前に何が見えているか確認するためにモニタリングできるようになっていると思います.このときは全画素を出力する必要はありません.そこで間引き走査により出力する画素を減らして省電力の小さくするなどの工夫がされています.
また切り出し走査により画素の一部だけ使うことで手ぶれ補正や電子ズームに利用できます.
信号処理
イメージセンサで出力した画像ではノイズや欠陥などがあります.そこで例として以下のような信号処理が行われます.
ホワイトバランス→補正 (欠陥補正,シェーディング,レンズ収差)→色補間→色補正→ガンマ補正→輪郭強調→ノイズリダクション
裏面照射 (BSI: Back Side Illuminated)
裏面照射はイメージセンサの裏側を露光面にすることで,金属配線などに光を遮られずに感度を大幅に向上させることができます.
金属シールド (Metal Grid)
裏面照射型イメージセンサでは隣に電荷が漏れてしまう混色が発生しやすいのですが,金属シールドにより混色を低減させます.
DTI (Deep Trench Isolation),FTI
DTI (Deep Trench Isolation)は裏面照射で画素間を隔離させる技術です.分離させる部分が画素の深くまで入っています.これによって混色を低減させます.DTIの発展として,画素間を完全に分離させるFTI (Full Trench Isolation)があります.
積層構造
積層構造はその名の通り画素とRead Out回路など別の機能を別のシリコン基板で作り,積層した構造です.この積層構造によって各画素にADCを設ける画素並列ADCなど,様々な機能が追加できるようになります.
Cu-Cu接続
Cu-Cu-接続は積層した構造を銅と銅で接続する方法です.積層構造で積層したチップを接続する方法としてBump,TSV (Through Silicon Via)などがありますが,Cu-Cu接続は優れた接続方法です.
まとめ
- 埋め込みフォトダイオード:n層を埋め込んだフォトダイオード
- OB (Optical Black):遮光された画素
- マイクロレンズ:各画素で集光するためのレンズ
- 瞳補正:画素の位置によりマイクロレンズの位置をずらして端での感度低下を低減させる補正
- 光導波路:画素内で光が漏れにくいように屈折率の高い材料を設けた構造
- 反射防止膜:画素内で光の反射を抑えるための膜
- 電子シャッタ:電荷を捨てること露光時間を制御するシャッタ
- CDS (相関2重サンプリング):相関のあるリセットレベルと信号レベルの差を取ることで信号を取り出すための回路
- 間引き走査,切り出し走査 (電子ZOOM):使う (走査する)画素を間引いたり,選択することでモニタリングモードやズーム,手振れ補正に利用するための走査方法
- 裏面照射型 (BSI):裏面を露光面にしたイメージセンサ
- 金属シールド:混色を防ぐための金属のシールド
- DTI (Deep Trench Isolation):画素間を隔離することで混色を低減する構造
- 積層構造:別のシリコン基板を積層した構造
- Cu-Cu接続:積層したチップを銅と銅で接続する方法