エネルギーバンドは複数の原子が結合することによって生じる,キャリア (電子,ホール)が存在できるエネルギー帯のことです.本記事では半導体の特性を理解するために重要なエネルギーバンドについて説明していきます.
エネルギーバンドとは
エネルギーバンドの形成
半導体であるシリコン (Si)で,エネルギーバンドが形成される原理を説明します.
原子は電子と原子核で構成されています.電子は原子核の周りに存在していますが,電子のエネルギーは離散的な値を取ります.シリコン (Si)の原子番号は14,つまり14個の電子をもちます.それぞれの電子はエネルギーの低い軌道から順に埋まります.正確にはK殻に2個,L殻に8個,M殻に4個の電子持ちます.K殻,L殻ではそれぞれ存在できる電子の席が埋まっていますが,シリコンの最外殻軌道であるM殻では4つの席が余っています.そのためシリコン原子単体では不安定になります.
そこで図2のように各シリコン電子が最外殻電子を共有します (共有結合).原子単体の時はエネルギー準位はそれぞれで離散的な値を取りましたが,共有結合することによってそれぞれのエネルギー準位は微小に変化して,複数の原子のエネルギー準位が重なります.このようにしてできたエネルギーの帯が,エネルギーバンドです.
半導体のエネルギーバンド
原子単体ではキャリアが存在できるエネルギーは離散的 (デジタル)に決まっています.その原子が複数結合すると,複数のエネルギー準位が重なって帯を形成します.これをエネルギーバンドといいます.図1に半導体のエネルギーバンド図を示します.
半導体では電子で埋まっている価電子帯と,電子の伝導に寄与する伝導帯を形成します.価電子帯と伝導帯の間に電子の存在できない禁制帯があります.
電子はエネルギーの低い状態になろうとするため,価電子帯が電子で埋まります.しかし,価電子帯では電子が多すぎて身動きできないため,電流の流れにはほとんど寄与しません.伝導帯に電子が存在すれば電流が流れますが,半導体では伝導帯に電子がないため電流が流れません.しかし,半導体のエネルギーギャップは絶縁体ほど大きくありません.そのため,熱や光のエネルギーより,価電子帯の電子がエネルギーギャップを超えて伝導帯に電子が遷移できます.また,半導体に不純物を加えることでも価電子帯の電子が伝導帯に遷移します.伝導帯に電子が遷移すれば半導体でも電流が流れます.
金属・半導体・絶縁体のエネルギーバンド
金属・半導体・絶縁体は導電率が違いますが,これは図3のエネルギーバンドで説明することができます.
先ほども説明した通り,電流が流れるようになるためには伝導帯に電子がある必要があります.金属では元々伝導帯に電子があるか,価電子帯と伝導帯がつながっています.そのため電子が自由に動くことができ,電流が流れます.
半導体では通常,伝導帯に電子がないため電流は流れません.しかし半導体に不純物を注入したり,熱や光のエネルギーによって伝導帯に電子が遷移します.よって半導体は状態によって電流が流れるようになります.
絶縁体では価電子帯と伝導帯のエネルギーギャップが大きすぎるため,通常は伝導帯に電子が遷移できません.そのため電流も流れません.
まとめ
- エネルギーバンド:複数の原子が接近して固体になると,電子が存在できる準位が分裂して形成されるエネルギー帯
- 価電子帯:価電子が埋まっているエネルギーバンド
- 伝導帯:電子の伝導に寄与するエネルギーバンド